朝一番に長女の病室を覗くと、すでに起きて携帯ゲームをして遊んでいる余裕の彼女でした。
頼もしさをおぼえつつ、今日の予定を話しました。
今日は手術(骨髄搾取)なので食事は抜きです。
時間が近づくと、担当の医師が緊張をほぐす効果があるというお薬を持ってきました。
簡単な内診と、体温、血圧などを測定し、特にかわりが無い事を確認してから
手術室へ向かいました。
ちょうど薬も効きはじめて、彼女はすこぶるご機嫌で千鳥足、
ちょっとしたことにでも笑い転げています。
おかげで、沈鬱な雰囲気になることもなく、明るい表情でおくることができました。
前室に入って簡単な説明を受け、笑い転げている彼女を、
担当の麻酔医に託して、私たちは待つことにしました。
長いようで短い時間でした。
1%の危険を考えて滅入ってしまいそうになりがちな気分をなんとか立て直しつつ、
それでも、スタッフの技術を信じて、ひたすら待ちました。
小1時間ほどたったでしょうか、
連絡係りの看護士さんが、無事搾取完了して
とても順調であることを伝えてくださいました。
移植することにあたって、いちばんドキドキしたのはこのときでした。
そしてしばらくすると、麻酔が切れて目を覚ましたとの連絡が入り、
私たちは面会を許されました。
飛んで会いに行った彼女は朦朧としていて、視点が定まっていませんでしたが、
それでも手を握り、話しかければ、ふんふんと頷いてくれます。
回復もとても早く、すぐに話せるようになり、
喉がかわいたとか、チューブを外して欲しいとか、
元気に注文を付けられるようになって、安心しました。
ただ、むくんでふわふわになって、
医療器具や点滴、膀胱カテーテル、酸素マスクにつながれた彼女がさすがに痛々しく、
もう二度とこんな事はさせたくない、と思いました。
それでも恐怖とたたかって、藍のために身を捧げてくれました。
「ありがとう・・・もう二度とこんな思いはさせない・・・」
やっと、これだけを伝えると、
彼女は大きな目を見開いて、一筋涙をこぼして、ふん、と頷きました。
術後の状態もとても良いので、長女はすぐに病室に戻れました。
看護士さんや医師のみなさんに、優しい労いのお言葉をたくさんかけて頂き、
長女も自分を誇らしく感じているような、満ち足りた笑顔を見せてくれました。
ひとつ大きな仕事を終えて、彼女は確実にひとまわり成長したように思えました。
術後はしばらくは点滴を続けると同時に、
吐き気防止のため、食事はおろか、飲み物を飲むことも禁じられます。
まだ麻酔が残っているので、体の機能が完全に回復していないからです。
でもとても喉が渇いて、どうにかして欲しいと訴える彼女に、
スタッフの皆さんにはナイショで、ポカリを持ってきてあげました。
さすがに一気飲みはいけないと思い、とても大きい綿棒を用意して、
これにポカリを浸して、口をうるおしてあげました。
まるで砂漠から戻ってきたばかりで水を飲むような笑顔を見せて、
嬉しそうに綿棒を舐めている彼女が、印象的でかわいかった(笑)
そして疲れたのでしょう、すやすやと眠りはじめた彼女を置いて、
今度は父親と藍の待つクリーンルームへ行きました。
藍は相変わらず機嫌が悪くて、父親をてこずらせていました。
そして、長女の骨髄が届くのを待ちました。
不要な成分を取り除いて、移植されるほんの60ccの骨髄液が届いたのは
そろそろ夕方にさしかかる昼下がりでした。
藍の主治医先生がほんの60ccの骨髄液と、前処置のお薬を
普通にワンショットするように打って、簡単に移植は終わりました。
これには本当に驚きました!
移植ってもっともっと大変で、物凄い時間がかかるものと思いこんで居たのです。
たしかに成人の場合は量も多いので5、6時間はかかるとは聞いていたのですが、
藍はまだほんの2ヶ月、量も少ないので、あっという間、の事でした。
「なんと、だまされているようです」、と思わず口に出してしまった私です。
先生は笑顔で、大丈夫、確実に入りましたよ。と答えてくれました。
自然に笑顔になれました。
そして、よけいな心配をさせることのないよう、無駄に話をせずに
「では、立ち上がるのを待ちましょう」とだけ、声をかけてくださいました。
おかげで、とても安心して藍を見守ることができたように思います。
このときの藍の血液データは
白血球600、ヘモグロビン6.5、血小板12000、感染値0.9、好中球396
これから骨髄が立ち上がるまでの間、藍は輸血して生きていきます。
次の日、長女は少し背中の痛みを訴える程度で、順調に回復して
やっと食べることが許された食事を、実に美味しそうに食べました。
退屈そうにゲームをしたり、テレビを見たり、
仲良くなった同室の女の子と遊んだりしてわずかの入院生活を楽しんでいました?笑
骨髄は搾取しても1ヶ月もたてば元どうりに戻る、
再生機能の強い細胞だし、見てのとおりとても元気な長女なので、
どうやら心配していたことは何も起こることなく、無事終えることができました。
これが、本当に良かったです。
問題は藍でこれからは毎日採血をして、状態をチェックすると同時に、
ほぼ毎日の輸血が続きます。
ミルクを自力で飲むことが大変難しくなり、
また、飲ませても吐いてしまうことが多くなりました。
栄養が取れないので、予定通り、中心動脈栄養に頼り、
点滴で流すことのできない抗生物質のみ、ガンバって口から飲ませました。
このお薬は感染防止のために、とても大切なのですが、
とても飲みにくいお薬だそうで、藍も苦労しました。
いつも機嫌が悪く、起きている時は一日中抱いていました。
寝ている時に大急ぎで用事をすませ、食事を摂り、
泣いている藍をすこしでも安心させてあげたくて、私は抱き続けました。
あまり寝てもいなかったと思います。
でも満ち足りていました。
私が藍にしてあげられることは、こうして抱いてあげることだけでしたから。
長女は2泊の入院を終え、たくさんのスタッフに見送られて家に帰りました。
すぐ明日からも普通に学校に通えるそうで、とても嬉しそうでした。
そして私は、彼女の骨髄が立ち上がるのをひたすら待ち続けます。
藍と一緒に閉ざされたクリーンルームの中で・・・・
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